今回読んだ本はこちら。
読書日記:「人体 失敗の進化史」で生物の5億年の変更履歴を辿る
様々な生物の進化の痕跡を紹介しながら、原始の生物からどのようにヒトまで進化してきたのか?
また、人間はなぜ二足歩行が出来ていて、他の生物に比べてどれだけ特殊な構造や特性を持っているのか?
という疑問を紐解いてくれる本です。
5億年かけてくり返された「設計変更」の履歴
地球に生命が誕生してから、5億年。
この間に、生物は様々な進化を遂げてきました。
それは「既存の設計図からの設計変更」のくり返しでもあるのです。
しかもその「設計変更」というのは、本来の意図で用意された機能を無視して、かなり強引な変更をしながら変化(時には進化、時には退化)してきたのです。
基本的に、新たな機能を生み出すとき、近くにあるちょうど良さそうな体の部品の一部を拝借します。
その一部の部品を変更することで新たな機能を獲得してきました。
原始の生物には骨が無く、心臓も無く、手足もありませんでした。
そこから途方もない世代交代をくり返しながら、体を丈夫にするため骨を作り、筋肉を作り、体中に栄養と酸素を行き渡らせるために心臓を作り、陸上を動き回るために手足を作り、二足歩行をはじめ、道具を使い出し、複雑な思考をするために脳が成長してきたのでした。
この5億年の「設計変更の履歴」を、肩、心臓、骨、手足、耳、脳、などの部位ごとに取り上げて、いかに大変な変更が行われたのかを紹介しています。
軽妙な語り口
生物学者でありながら、この本は軽妙な文章で話が進んでいきます。
たとえば、第1章「1-2 ハートの歴史」の導入では、
私も昔は恋をした。いや男女問わず、きっと死ぬ瞬間まで、恋心というのは胸を締め付けるものだろうと勝手に想像しながら、ヒトの人生を少しでも明るく考えたいと思う私だ。で、その揺さぶられる胸(ハート)がこの節の主題になる。
という文章が登場します。
「これから心臓の進化を紹介しますよ」という導入文なのだけど、この表現は個人的に非常にツボでした。
この本の内容に必要な、筋肉や骨の専門用語があちこちで登場してきますが、途中にこのような文章が挿入されてくるので、飽きずに読み進めることが出来ました。
この著者は解剖をせずとも文筆活動でメシが食えるんじゃないでしょうか。
人間は失敗作なのか?
最後の第4章「行き詰まった失敗作」というタイトルで、ヒトの進化について取り上げています。
二足歩行というのは非常に過酷な生き方なのだそうです。
心臓が体のまん中にあり、上下に血液を行き渡らせなければならないし、足の先まで流れた血液は、静脈を通ってまた心臓まで登らなければならないのです。
また、背骨が垂直に立っているために起きる椎間板ヘルニア、重たい頭を支えるために肩こりが起きる、など。
ヒトが二足歩行をしているために様々な不具合が起きているのです。
そのため、学問的に進化の行く末を考えると、ここが終着点なのではないか、と書かれています。
勝手に採点表
- 本のボリューム:★★★★☆
- 読みやすさ:★★★★☆
- 分かりやすさ:★★★★★
- オススメ度:★★★★★
- ためになった度:★★★★☆
感想
感想を一言で表すならば、「よくもまあこんな危うい進化を遂げたものだ」と思わざるを得ません。
大昔の生物は、将来「後ろ足で二足歩行をする」ということは全く考えていなかった訳です。
そして、ヒトはどこに向かって進化できるのか?可能性は低いという意見です。
とはいえ、僕たちが生きている間に(生物学的な進化によって)種が滅んでしまうということは考えられないので安心しましょう。
たまには、こういう専門外の本を読んでみるのは脳みそが刺激されます。
興味深い本でした。
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